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旅館業はパッケージ(3) 全体最適
部分最適にこだわり全体最適が見えてこない
部分最適と全体最適。これを説明するのに分かり易い実例があります。先日、渓谷と石畳が有名な景勝地の旅館に泊まりました。地元では由緒ある宿で、その渓谷を借景にした庭が部屋から見えるのが売りです。
その渓谷の石畳を歩いてみました。すると流木やゴミが石畳のいたる所にあり、木にも引っ掛かかっていました(写真)。原因は昨年(2019年)の豪雨(台風)による川の氾濫でした。大きな流木は仕方ないとしても、小さな枝木やプラスチックゴミは人の手で直ぐに片付けられるのに、そのまま放置。渓谷美は台無しです。
夕食の時に宿の人に石畳のことを話すと、こう応えました。「役場の人がなかなか掃除をやってくれないんですよ。観光関連の復旧は優先順位が低くて困ったもんです」。この人、石畳のゴミのこと、他人事だと思ってる。自分の宿の中が綺麗ならいい(部分最適)と思っている。
客はその旅館に泊まることだけを目的として来てるわけじゃない。周りの雰囲気や環境も含め、パッケージとして非日常を楽しみたいと出かける。旅館自らが汗をかいてゴミ拾いすれば、きっと行政も動かせる。そうすれば渓谷は元に戻り、旅館街も全体として綺麗になり活性化する(全体最適)。その結果、個々の旅館はもっと良くなり利益が上がり好循環に入るのです。
綺麗な渓谷があったから宿ができたのです。宿ができたから渓谷があるわけじゃないのです。
千葉県習志野市に谷津干潟というラムサール条約登録地がある。ここは昔、埋立予定地に決められていて地元の人がゴミを捨てる劣悪な干潟だった。ある日、地元の一青年がそのゴミを拾う行動を起こしたことがきっかけで、それが彼の勤務先の上司、地元住民、新聞社、テレビ局、市、県を巻き込んで干潟へのごみ捨て禁止、干潟保護、そして埋立中止を実現させた。その後、国も動き、ラムサール条約登録までこぎつけた。谷津干潟は今では東京湾の実寸大の自然が目の前で観察できる観光スポットになっています。青年の起こした小さな部分最適が組織の力によって全体最適に動いた成功例です。
このような例は実は日本の製造業では文化として昔からあります。製造現場の一担当者の工夫やアイデア(部分最適)を工場が効果を実証し、それを経営層が評価、採用し全社展開(全体最適)する。これは「改善」と言われる手法で、今では海外でも広く採用され、 KAIZEN として英語になっています。
「災害は忘れたころにやって来る」はもう通用しません。「災害は忘れないうちにやって来る」。豪雨などの災害のたびに国や自治体を頼っていては私たちの事業(生活)継続はできません。自分たちでできることは率先してやる。厳しい時代に入ったのだと思います。