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英語は会話のツールではなく、意思決定のインフラである
英語力の問題だと思われがちな国際会議での違和感。
しかし実際には、会議が始まる前の非公式な時間に、すでに意思決定の流れが動き始めていることがあります。
英語とは、単なる会話の道具ではなく、その流れにリアルタイムで参加するためのインフラなのです。
英語が話せることは、よく能力や国際性の象徴として語られます。でも、実務の現場で起きていることは、もう少し残酷です。
私が経験したのは、ドイツで開かれた国際会議でした。世界各国の海外拠点の代表取締役が集まる会議です。
参加者の多くはヨーロッパ各国の代表者で、日本人の参加者は私一人でした。会議の公用語は英語です。
その日の朝、正式な会議が始まる前に、会議室前のロビーで、コーヒーを手にした立ち話が始まっていました。
「昨日、ホテルの前の道を歩いていたら、鳥の糞が目の前に落ちてきてね」
誰かがそう言うと、周囲に笑いが起きます。冗談が続きます。
会話の意味は、なんとなく追える。でも、笑うタイミングが分からない。笑えない。反応が少し遅れる。
そのときは、それは小さなことに思えます。しかし、そこから最初のズレが生まれます。会話の流れに、ほんの少し乗り遅れるのです。
同じ場所にいて、同じ会話を聞いている。それでも、話の流れのどこに自分が立っているかによって、見えている状況は変わります。
その雑談の中で、誰かがさりげなく言います。
「例の件、あの方向でいけそうだね」
「まあ、その方が現実的だろう」
まだ正式な議題にも上がっていない。議事録にも残っていない。しかし、これから始まる会議の方向性は、すでにそこで合意され、共有されているのです。つまり、正式な会議の前に、小さな合意形成のタネが蒔かれている。
その場にいても、その文脈の中に入れていないと、会議が始まったときにこう感じます。
「えっ、もうその前提で進むのか?」
議論が唐突に見える。決定が突然に見える。自分の意見が、どこか噛み合わない。
この違和感は、単純な能力の差ではありません。意思決定の流れに、少し遅れて参加していることから生まれるのです。
国際的な意思決定には、公式の時間と非公式の時間があります。
ロビーの立ち話。
移動中の軽い確認。
会議前の雑談。
前夜の夕食やバーでの会話。
非公式の時間の中で、すでに方向性は形づくられています。正式な会議は、その確認の場にすぎないことも少なくありません。
英語が十分に理解できないと、この非公式の時間に入りきれません。しかも、そこでは英語力だけが問われているわけではありません。
冗談への反応。間合い。相づち。前夜から続いている文脈。誰と誰が、どの話題でつながっているのか。
そうしたものを含めて、非公式の時間は流れています。その流れに乗れないと、自分だけが常に“後から”参加しているように感じてしまいます。
決定が突然に見える。
自分の意見が噛み合わない。
空気が読めない。
やがて評価がズレる。
発言力がズレる。
存在感がズレる。
孤立は、突然には起こりません。会話や意思決定の流れに少しずつ遅れていくことで起こるのです。
ここで大切なのは、英語は単なる会話のスキルではないということです。
問題は、英語力そのものだけではありません。
英語で動いている非公式の時間に、参加できるかどうかです。
会議前の30分。
ロビーでの立ち話。
議題になる前の小さな確認。
前夜から続いている関係の流れ。
そこに入れるかどうかで、会議の見え方は大きく変わります。
もしあなたが、国際会議の場でいつも半歩遅れている感覚を持っているなら、それは努力不足ではないかもしれません。
意思決定の流れに、少し遅れているだけかもしれません。
そして、その遅れは、能力論ではなく、時間差を意識して埋めることで変えられるものだと思います。
英語とは、世界と話すための道具ではありません。
世界の意思決定の時間に、リアルタイムで参加するためのインフラなのです。